記録帳3-C(武蔵坂学園入学以降)
TW4『サイキックハーツ』PC【鵜島・杏月(d18585)】に関するSSだったり雑記だったり仮プレだったり。 TW4って言って分からない方やなりきりとか苦手な方、荒らし目的の方は即時退出を推奨致します。
XXXX.XX.XX_始まり
- 2015/05/19 (Tue) |
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『愛する杏月へ
この手紙を読んでいるということは、あなたか私か、或いは両方やその周囲に、何か大変なことが起こったのでしょう―
某月某日。とある超能力研究所にて。
天候は明瞭。だが、老婆の胸中には、何とも言えない暗雲のようなものが感じられた。
「何かしら、嫌な予感がするわね…今日も何事もなく、終わってくれればいいのだけれど」
しかし、老婆の予感は的中する。それも、最悪の形で。
◇
「―おかしいわね」
今日は試験予定はない。この場合、彼女は独房か資料室、或いは老婆の部屋に居るのが通常である。しかし、そのいずれにも彼女の姿がない。
「ウラツカさん。杏月を見なかった?」
「被検体No.14ですか?オオヤナギ博士が連れて行ったようですが、試験では?」
「…嫌な予感がする。探してくるわ」
静かに首を振った老婆は、急ぎ足で廊下の奥へと消えた。
◇
静かに首を振った老婆は、急ぎ足で廊下の奥へと消えた。
◇
「何をしているのかしら?」
通常なら使われない、研究所奥の多目的研究室―通称『無駄部屋』―に、使用中のランプが点いていた。
訝しんだ老婆が部屋に入ると、中ではオオヤナギが杏月の身体をまさぐっているところだった。
訝しんだ老婆が部屋に入ると、中ではオオヤナギが杏月の身体をまさぐっているところだった。
「主任!?いえその、これは…!」
「急遽決まったストレス耐性の試験、と聞いていますが」
「杏月、そんなものは無いわ」
オオヤナギはすっかり狼狽え、口を開け閉めしていた。
「分かっているわね、オオヤナギ博士」
「は、あの、その…」
杏月との間に割って入った老婆が、剣呑な表情でオオヤナギを睨む。
「処分は後で下すわ。まずは即刻立ち去りなさい」
しかし、それまで狼狽えるばかりだったオオヤナギが、突如逆上する。
「…くそっ!調子に乗るな!」
「何ですって?」
「立場だけ立派なババアが!」
オオヤナギは老婆に詰め寄り、喚き散らす。
「実験体にどんな実験しようが私の勝手だろうが!お前にとやかく言われる筋合いなどない!」
「私はこのチームの主任。実験内容を決める権限は私にある。そもそも、今のは実験でも何でもないわ」
「黙れ黙れ!」
「黙らないわ。実験の名を借りて己の下衆な欲望を満たそうなど、研究員の風上にも置けないわね」
「黙れと言っている!このババアがッ!」
激昂のあまり、老婆を突き飛ばすオオヤナギ。
その瞬間。
部屋の―否。杏月の纏う気配が、一変した。
◇
―杏月には、親と呼べるものが無い。
物心ついた頃には、実験体として組織に育てられていた。
いわゆる試験管ベビーと聞かされていたが、両親の情報は一切不明のまま。
故に、名を、安心を、愛を与えた老婆こそ、唯一の肉親と呼べた。
そのかけガえなイ存在を、オ前は、傷ツケタ―
◇
「杏月、駄目!」
老婆が叫ぶ。しかし、その声は杏月には届かない。
熱波が渦巻き、炎が揺らめき。杏月の身体に顕れたそれは、狐のそれによく似た耳と尾、そして霊獣を思わせる枝分かれした一本の角。
「大切ナモのヲ傷つケる行為ハ許さレマせン。危害要因ヲ排除しマす」
―試験の体は成していなかったが、オオヤナギの行為はある意味間違っていなかった。
ストレス耐性試験。身体及び精神に、外的要因による負荷がかかった場合、どの程度の要因によって、どのような影響が現れるか。
彼の行為により蓄積したストレス・怒りが、研究対象たる『それ』を引き出した。
虚ろな目でオオヤナギを捉える杏月。彼女の周辺には、小さな狐火が無数に浮かんでいる。
「発火能力…!これが、被検体No.14の超能力の姿か…!」
「言ってる場合!?早く逃げ―」
老婆が言い終わる前に、炎の矢と化した狐火が一斉にオオヤナギへ向かって飛び、貫き、焼き尽くした。
「―何てこと…」
肉の焼ける臭いが漂う。オオヤナギだった“それ”が上げる黒煙は、彼の魂そのものにすら見えた。
「杏月…!」
老婆の声は届かない。少女はふわりと飛び上がると、老婆を飛び越えて扉へ向かう。
施設に悲鳴と警報が響き渡るまで、三分とかからなかった。
◇
「主任!」
「…ウラツカさん」
ようやく部屋から出た老婆のもとへ、白衣を焦がした女性が駆け寄る。
「一体何があったんですか!?あれは一体…」
「非常事態よ」
哀しみをたたえた老婆の目は、それでも揺らぎはない。
「緊急時対策法に従いチーム結成。対策班は第三会議室に集合よ」
◇
「―現在、杏月…被検体No.14は暴走状態にあるわ」
会議室に集まった対策班は、老婆を中心にブリーフィングを行っていた。
「オオヤナギ教授を殺害後、所内にて破壊活動を行っているようだけど…」
「攻撃の傾向を見ると、施設設備というよりは白衣を着た職員を狙っていました」
「オオクボ君、それは本当?」
オオクボと呼ばれた若い職員が首肯を返す。
「…杏月は危害要因を排除すると言っていたわ。オオヤナギ教授の姿を見て、ターゲットの特徴を『白衣の人間』に絞り込んだのかも知れない」
少し考え、老婆が口を開く。
「館内放送。全職員は白衣を脱ぐように」
「了解です!」
職員が内線を操作し、館内放送が流れる。
「…これで時間は稼げるわ」
「それで主任。被検体No.14の処遇ですが…」
別の職員が、やや訊ねづらそうに問う。
老婆は目を閉じ逡巡していたが、やがて口を開いた。
「…呼びかけには反応がなかったわ。制御不能と判断せざるを得ない」
制御不能。それは即ち、被検体としてはもはや用を成さないということである。
「…よろしいのですか」
老婆の心中を察してか、気遣わしげに確認する職員。
だが、老婆は揺るがない。
「…暴走した被検体No.14について、機密保持のため殺処分を許可します。対策班は武装し展開を」
◇
◇
―この施設における研究による副産物の一つとして、特殊武装がある。
これは研究中に偶然生まれたものだが、擬似的に超能力と同等の現象を引き起こすことのできる道具である。
被検体は肉体へのあらゆるダメージを無効化するが、超能力やこの特殊武装では死傷するため、非常時―言わば、被検体が「死傷する」必要がある時―に用いられる。
小銃の形をした『それ』から、鉛玉ではない何かが吐き出され、少女を死傷せしめんと突き進んでいった。
その殆どは途中で炎に焼かれ、目前で蒸発し、ようやくたどり着いた幾つかが少女にかすり傷を負わせた。
「打ち続けろ!ダメージが蓄積すれば、いずれは倒れる!」
「…危害要因ヲ排除シマス」
職員の声に、杏月が振り向いた。
狐火の一つが、細長い棒状に形を変える。杏月はそれを握ると、職員へ向かって走り出した。
「来るぞ!全員退…」
「排除シマス」
「っ!!」
職員の一人が指示を飛ばす頃には、杏月は肉薄していた。床を擦るように振り上げられた狐火は、瞬時に職員を火だるまへと変える。
「…杏月」
難を逃れた職員が廊下の角まで退避する中、老婆だけが逃げずに残っていた。
「…排除、シマス」
「主任、危険です!」
杏月の中で、ターゲットが『武器を持つ者』にすげ変わったのだろうか。彼女は老婆を見ても、無感動に炎を構えたままだった。
「来なさい」
刀を腰だめに構えるように、杏月が狐火を持って突撃の姿勢をとる。老婆はただそれを見据え、もう一度「来なさい」とだけ言った。
「主任!何考えてるんですか!主任!」
「逃げてください!早く!」
職員の絶叫をBGMに、杏月が床を蹴った。
吸い込まれるように、少女は老婆の懐へ―
―炎と衝撃に耐えかねた天井が崩れたのは、ほぼ同時だった。
◇
「―え」
杏月には、状況が全く分からなかった。
オオヤナギ博士が老婆を突き飛ばして、頭がカッとなって―そこまではおぼろげに覚えている。
だがそれがどうなって、施設のあちこちが壊れたり燃えたりして、自分は老婆に抱きしめられたまま、燃える瓦礫に諸共押し潰されているのだろう?
「主任!大丈夫 すか主任!」
「被検 は…何だ、元に戻 のか!?」
「と く手を せ!瓦 ど せ!」
視界がぼやけ、職員の声が遠のいていく。身体から力が抜けていき、意識が暗闇へと沈む。
その中で杏月は、老婆の声を聞いた気がした。
「ごめんなさい。でもよかった」
◇
―次に杏月が目を覚ましたとき、そこはカーテンに囲まれたベッドの上だった。
周囲を見渡し、匂いを感じ、何となく「医務室のようだ」という感想を抱く。
「目が覚めたかい?」
首をひねると、見知らぬ男が椅子に座っていた。
少なくとも研究所の職員ではなく、医師でもなさそうだった。
「怪しい者ではないよ、彼女のちょっとした知り合いさ」
男は苦笑すると、封筒と細長い包みを差し出してきた。封筒には、老婆の字で『杏月へ』と書かれている。
「…おばあさまは?」
体を起こした杏月が問うと、男は返答に困ったような素振りを見せ、結局ただ首を振った。
「…そう、ですか」
受け取った封筒を開くと、中に入っていたのは便箋と、何かの書類らしき紙だった。
綺麗に畳まれた便箋を開くと、やはり老婆の字で手紙が書かれていた。
『愛する杏月へ
この手紙を読んでいるということは、あなたか私か、或いは両方やその周囲に、何か大変なことが起こったのでしょう―
◇
「…人はこういう時、涙を流すのでしょうか」
手紙を読み終えた杏月は、淡々とした表情のまま俯き、ポツリとそう漏らした。
「そうかもしれないね。ただ、それが絶対ではないよ」
男はそう言って、微笑むだけだった。
「それで、どうする?」
男が同封されていた書類を指して問う。
「ペンをください」
ベッドテーブルを引き寄せながら、杏月はそう返した。
「即答だね」
男は苦笑しながら、ペンを手渡した。
「まあ、君ならそうすると思って…その他諸々の準備はしてあるけどね」
「ありがとうございます」
書類にはこう書かれている―
『武蔵坂学園 入学願書』
◇
―あなたがどのような道を歩むか。私には、それが分かりません。知る権利も、無いのかも知れません。
それでも、あなたがどんな道を歩んでも、私はあなたを見守り、応援しています。
愛する杏月へ。
大好きです。
ありがとう。
―心を込めて。 鵜島・茶恵』
◇
―あなたがどのような道を歩むか。私には、それが分かりません。知る権利も、無いのかも知れません。
それでも、あなたがどんな道を歩んでも、私はあなたを見守り、応援しています。
愛する杏月へ。
大好きです。
ありがとう。
―心を込めて。 鵜島・茶恵』
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プロフィール
HN:
鵜島・杏月(背後:蛍月)
HP:
性別:
非公開
自己紹介:
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※なお、このブログで使用されるキャラクタの画像は、株式会社トミーウォーカーのPBW『サイキックハーツ』用のイラストとして、PLである『蛍月』が作成を依頼したものです。イラストの使用権は『蛍月』に、著作権は各イラストマスター様に、全ての権利は株式会社トミーウォーカーが所有します。
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